愛の物語

ウィリアム・ターナー

画家のターナーについて感動的な話があります。

ターナーの色彩は鮮明かつ強烈で、他の地味な色調の絵画を圧倒してしまうほどでした。

一度、1826年に、展覧会でケルンを描いたターナーの傑作が、トーマス・ローレンス卿の二枚の肖像画の間に展示されることになりました。

トーマス・ローレンス卿は、ターナーの鮮烈な空の色に影響されて自分の作品が全く引き立たないということに気づき、心を悩ませ、無念がりました。

主催者側に苦情を言いましたが、どうしても、決定をくつがえすことはできませんでした。

でも、一つだけ方法がありました。そしてターナーはそれをしたのです。

当時、画家は、芸術協会の壁にかけられた自分の作品に手を加えることが許されていました。そこでターナーは、自分の絵に「手を加えた」のです。ローレンスが、彼の作品のすぐ隣りにかけられた作品を恐れなくてもいいようにするためでした。

展示会の朝。前にターナーのこの作品を見たことのあるターナーの友人が来ました。

友人の一団を率いて、かの壮大で見事な作品を見ようと、誇らしげにです。ところが、その友人はびっくり仰天しました。

あの栄光に満ちた空の色が、さえない茶色に変わっていたのです。絵は台なしでした。

ターナーを見ると、すぐに駆け寄り、あの絵は一体どうしてしまったのかと問いかけました。

すると、ターナーは小声でささやきました。

「シーッ! 何でもないさ。全部洗い落とせるから。ただの黒色顔料だよ。ローレンスの哀れで不幸せな顔を見るに耐えられなかったんだ。」

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(Joseph Mallord William Turner、1775年4月23日 - 1851年12月19日)
イギリスのロマン主義の画家。

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